「ホーン」アフタートーク 唐木元さん

ワワフラミンゴ「ホーン」6

前回公演「ホーン」のアフタートークで唐木元さん(コミックナタリー編集長/トーベヤンソン・ニューヨーク)にお話いただいた内容を書き起こしました。

参加者:
唐木元(コミックナタリー編集長/トーベヤンソン・ニューヨーク)

鳥山フキ(ワワフラミンゴ主宰)


あまり勉強しない方がいいのかな、って

鳥山:今日はいかがでしたでしょうか?

唐木:あの、その質問の前にですね、僕がなんでここに呼ばれてるのか伺っていいですか。

鳥山:唐木さんワワフラミンゴを何回かご覧になってますよね? 何回か見ていただいて大体様子がわかってらっしゃるので……。

唐木:何度も見てる方は他にいくらでもいらっしゃるでしょう(笑)。つまり、僕みたいな演劇の外側にいる人間を呼んだということは、なんらかの意図があるのかと思って。

鳥山:あー……。

唐木:一応わたくし自己紹介をしておきますと、ナタリーというカルチャーニュースのサイトを運営しておりまして、主にマンガと物販が担当領域なんですけど、実はワワフラミンゴで女優をされてる北村さんというのは会社の同僚なんですね。その彼女がずいぶん前……もう4年近く前ですけど、ある日「私の出る演劇、観に来てもいいんだよ?」って言うんで、ああ、これはチケットが売れなくて困ってるんだな、と思って(笑)、それで伺ったのが初めてでした。

鳥山:はい。

唐木:そのとき僕はかなり覚悟して行ったというか、小劇場でいい思いをしたことがほとんどなかったものですから、義理でチケット買ってしんどい気持ちで帰るいつものやつだろう、と高を括っていたわけです。ところが好きになっちゃって。観たら。

鳥山:あ、ありがとうございます。

唐木:それ以来、足繁く通わせていただいています。

鳥山:そうか、そうだったんですね。演劇は全然ご覧にならないんですか?

唐木:自分から行くことは滅多になくて。今日は演劇関係の方がいっぱいいらっしゃってるんですよね? 怒られると思うんですけど……大丈夫かな。

鳥山:大丈夫です。

唐木:北村さんにも「唐木さんてどんな演劇を観るんですか?」って聞かれたんですけど、「(自分から行ったのは)ゴキブリコンビナートとチェルフィッチュしかないよ?」って答えたの。

鳥山:いいじゃないですか(笑)。

唐木:いや、僕、いま言い直してみて、なんて浅はかで軽佻浮薄な腐れサブカルなんだろうと自分で思いましたよ!

鳥山:大丈夫です。

唐木:大丈夫……なんですかね。とにかくワワフラミンゴは好きになってしまったわけです。うん。なんで好きかって言うと……。

鳥山:はい。

唐木:最初に見たときね、ものすごい巨大な怒りを感じたというか、この人すごい怒ってるんだな、と思ったんです。この人というのは、役者さんもちょっとはあるんだけど、それよりも、作った人。

鳥山:私ですね。

唐木:この小柄でニコニコフワフワされてる方の体内に、ものすごい怒りがふつふつとたぎっていて、それがあんな風にすっとぼけた芝居を作らせているのかな、って思ったんですよ。勝手に。

鳥山:うふふふふ(笑)。

唐木:だからまず伺いたかったんですけど、鳥山さん演劇ってお好きなんですか? 自分のところ以外の。

鳥山:え?! 好き……好きかあ……うーん……、まあ好きだと思います……。

唐木:僕がさっき言った、勝手に想像した憤りというのは、既存のお芝居のね、あるじゃないですか、たとえば発声のしかた、セリフ回し、たとえば身体の使い方、そういった既存のものに対する強烈なNO、怒りみたいなものをお持ちなんじゃないかと。

鳥山:そんなのないですよ! ええーっ、そんなの全然ないです!

唐木:そうなんですか。既存の演劇人はみんな死ねばいいと思って生きてたりしませんか?

鳥山:ちょっとー! うそでしょ? 何言い出すんですか(笑)。そんなこと思ってないですよ。そんなこと思ってないですし、そもそも私、あんまり既存のお芝居をわかってないので……。

唐木:うん、そこですよ。お芝居のことは知りません、つまり私はいわゆる演劇畑の人間ではないとご自分では定義づけられているということですよね。

鳥山:そうかもしれないですね。少なくとも正統な感じではないです。ちゃんと学校に入って演劇を学んだとかいうわけでもないですし、たくさんお芝居を観てきたわけでもないですから、そういう意味では正統派ではないだろうっていう感覚です。

唐木:となると劇をご自分で作られるときは、何というか、正統に対するカウンターであったり、オルタナティブであったりということを意識して臨まれたりするんでしょうか?

鳥山:そこまではっきりしたことは考えませんけど、あまり勉強しない方がいいのかな、って思うときはあります。

ワワフラミンゴ「ホーン」7


タヌキは自分で書きました

唐木:ちなみに僕は今日、演劇がわかんない人、という役回りでここに来てますけど、インタビュアーとしては割とキャリアがある方なんで(笑)、だからこれは一種のインタビューだと思ってやっております。公開インタビューだと思って。

鳥山:あー……。私あんまり喋るのが得意じゃなくって、唐木さんはいっぱい喋る人だから任せとけば大丈夫だよ、って伺ってトーク相手にお願いしたんです。

唐木:なるほど。でも僕は鳥山さんの言葉が聞きたいな。

鳥山:言葉を表に出すと、こう言えばよかった、みたいな感じになりませんか? 後で。

唐木:必ずなりますね。

鳥山:なりますよね?

唐木:それは宿命ですよ、人前に出る者の。

鳥山:そうなんですね……フフフ。

唐木:ご自分が喋るのに比べたら、劇が終わった後は、こうすれば良かった、みたいのは少ないですか? もしくは多い? 後悔とか。

鳥山:こう演出しとけばよかった、みたいなものがはっきり明確にわかることってあんまりなくて。なんか漠然と、よかったー、みたいな感じ?

唐木:こうしておけばよかった、という感慨があんまりないというのは、ここに辿り着けば合格、っていう正解を持たずにやってるということですか? それだとどうやって稽古とか演出をしているんだろう。

鳥山:あの、漠然とした正解みたいのが最初にまずイメージとしてあるんです。あとは台本作りながら稽古してるので……。

唐木;稽古しながら台本を書き足すってことじゃなくて、お話自体、稽古しながら作ってるってことですか?

鳥山;そうです。

唐木:北村さんからたまに稽古風景だっていう写真が送られてくるんですけど、あれ茶飲み話ですよね?

鳥山:茶飲み話です(笑)。

唐木:演劇の稽古って聞くと、稽古場みたいなところでジャージの人たちがストレッチとかしてそうじゃないですか。けど普段着の女性たちが畳に座って、湯のみ片手におしゃべりしてる風景が送られてくる。あれが結局は台本になってくるってことなんですか?

鳥山:そうですね。そういうこともあります。

唐木:タヌキも?

鳥山:タヌキは自分で書きました。

唐木:初見の方がいたら申し訳ないので説明しておくと、何度か繰り返し出てくるキャラクターとしてタヌキがいましてね。

鳥山:今まで……たぶん二度ですね。

唐木:あれ、なんでタヌキなの?

鳥山:え……、可愛いじゃないですか(笑)。

唐木:脈絡なく物を降らすのもおしゃべりの中から? これも説明しますと、以前は劇場の天井から札束がビターンって降ってきて。今回は天井からみかんがボトボト降ってきた。

鳥山:みかんはおしゃべりの中からですね。あとはただ単に、劇場が久しぶりっていうのもあって(天井があるから降らせられると思って)。

唐木:そうそう、今回びっくりしたんだけど、すごい今までになく大掛かりなセットを立て込んだじゃないですか。なのに一切使わないですよね。セリフで触れすらもしない。椅子も置いてあるのに座らないし。

鳥山:うふふふ。

唐木:それでヤップ島の石のお金みたいなの(直径約160センチのダンボールでできた円形の装置)が出てきたと思ったら、これはパイナップルだって言う(笑)。でも僕は、あれをパイナップルだと言い張ったことより、道具を使い始めたことにまずびっくりしました。

鳥山:そうですね。あのパイナップルはもともと、駒沢公園で使ったものなんです。やっぱり野外でやるのに、ちょっと大きいものがあったほうがといいかと。

唐木:駒沢公園ってあれですか、雨が降りそうなんで僕行かなかったとき?

鳥山:そうですそうです。雨降りましたよ。実際に。

唐木:雨の中やったんですね。じゃあパイナップル濡れちゃったってことですか。

鳥山:パイナップルかなり濡れました。

唐木:しっとりしちゃった?

鳥山:まっすぐ走れなくなりました(笑)。

唐木:っていうことは(舞台下手の)あの塔は、駒沢公園の……。

鳥山:あれは駒沢オリンピック公園に記念塔っていうのがありまして、その塔なんですよ。

唐木:そうかー。僕が行かなかった回のつづきって意味だったんですね。うわー、行かなかったのが口惜しくなってきました。

ワワフラミンゴ「ホーン」8


「棒読みにして」って指定するんですか?

鳥山:当日パンフレットに書いてあるんですけども、もともとは駒沢公園でBOOK STREETっていう本屋さんの野外イベントがありまして、そのときすごい悪天候だったんです。で、急遽テントを建てて。その時に建てたテントとほとんど同じように作ってあります。本棚もその時の棚です。

唐木:そのパイナップルを転がしながら北村さんが言う、「今日がお前の命日だー」ってセリフ、最高でしたね。

鳥山:最高でしたか。

唐木:会社みたいだ!と思って。僕、北村さんと一緒に働いていて思うのが、普段のオフィスでの会話がワワフラミンゴっぽくなってるときがあるんです。もはやどこからが芝居でどこからが普段の会話なのかわからなくなっていて、あの人は稽古のし過ぎで魂を乗っ取られてしまったのではないかと。

鳥山:確かに、北村さんはわりと普段からああいう感じです。他の劇団の芝居に出てもああいう感じなので、ちょっとびっくりしたときがあります。

唐木:他の芝居でもあの調子なんですか?

鳥山:わりとそうですね。

唐木:そうなんだ。彼女の喋り方のテンポとかが鳥山さんの演出に支配されてるのか、それとも彼女の元々の喋り方が鳥山さんの劇作にフィードハックされているのか。どちらともわからないなと思っていて。

鳥山:それ、私もよくわからないんです。どっちが先なのかよくわかんないです……。

唐木:例えばいかにも演劇的な節回しとか喋らせ方ってあるじゃないですか。それをしないでしょ?

鳥山:ええ、そうですね。

唐木:それはどのぐらい作為的なんですか? 稽古の現場ではっきりと「棒読みにして」って指定するんですか?

鳥山:棒読みっていうか、「普段通りに喋ってほしい」みたいなことは言いますね……。うちに何度も出てる人はもうわかってくれてるんですけど、舞台慣れしている人とかでやっぱりちょっと違うなって思った時は「普段通りに喋っていいんですよ」って言います。

唐木:舞台慣れしている感じは出したくないってことなんですね。

鳥山:うーん、普段通りに喋ってほしいんですよ。とにかく普段がいいんだから、普段通りにやってほしいっていう……。

唐木:ああそれで思い出したんですけど、昔、好きだったアイドルの子がね、あるとき、とある劇団に入られて、たぶんものすごく稽古をなさったんでしょう、それまでアワアワした感じだったのがお腹からしっかりした声が出せるようになって、身体の使い方もなんかもダイナミックになって、たぶんそれって演劇的には成長であり褒められてしかるべきことのはずなんですけど。

鳥山:はい。

唐木:でもその人が次に出たテレビドラマ、僕はもう見てらんなくなっちゃって。あれはなんだろう、声が出ること、身体を大きく使えることが嬉しくてはしゃいでる感じがしちゃったのかな。ギターの早弾きを聞かされてるときと似た感じかもしれない、とにかく、ああこの人に僕が感じていた魅力みたいなものはすっかりなくなっちゃったんだなー、と思ったことがあったんです。

鳥山:なんでしょうね、やっぱり素がいい。作ってしまうとちょっと……と思うんですかね。

ワワフラミンゴ「ホーン」9


最後に人生の意味がわかっちゃたりとかするのは

唐木:でも一方で、人は素では、あそこまで意味の通らないことは言わないじゃないですか。

鳥山:あ、言わないですか。

唐木:言いませんよ(笑)。だから、喋ってる感じはあまりに普段なんだけど、喋ってる内容は鳥山さんの世界なんで、まったく普段じゃない。そこに飛距離みたいなものを感じるんですね、ワワには。

鳥山:そうですか。たぶん内容が普段じゃないというのは、あれはだいぶ間(あいだ)をカットしてるんですね。

唐木:え、あの話題がいきなり飛躍したりするのは、わざと意味を断絶させた話を書いてるんじゃなくて、意味の通ったお話の一部をごそっと抜いて、ああなってるってことですか。

鳥山:そうです。間をだいぶ抜いてるって感じですね。

唐木:へええー、そうだったのか……。それはどうして抜く作業をするんだろう。なんか意味が付いちゃったり、わけがすんなりわかっちゃったりするのがイヤってことですか?

鳥山:うーん……。ちょっとはイヤです(笑)。

唐木:僕だんだん鳥山さんのこと好きになってきました(笑)。ちょっとはイヤなんだ。

鳥山:ちょっとはイヤ……うーん、なんだろう、意味がはっきりした会話がイヤかどうかってことですよね?

唐木:最後に人生の意味がわかっちゃたりとかするのは。

鳥山:あ、それは……。(スタッフからまもなく終了の合図が出されて)そろそろみたいです……。何か話をまとめたりしますか。

唐木:いままでの話で言うと、鳥山さん、まとめたりするタイプじゃないですよね。

鳥山:そうですね(笑)。でもなんかまとめたほうがいいのかなと思って……。

唐木:ははは。いつもは劇の終わりはどうやって決めてるんですか?

鳥山:劇の終わりは良きところで……。うーん、終わり方って難しいんですよね。

唐木:いつも鳥山さんの劇の終わりはぶっきらぼうにブツ切れで終わるというか、さっき言ったような、芝居の意味とかを持たすのをなるべく拒絶しているような終わり方に見えるんです。

鳥山:そうですね。ストンて終わりたいっていう感じですね。

唐木:ストン、ですか……。じゃあこのトークもストンと終わりましょうか。

鳥山:ほんとですか(笑)ストンと……。

唐木:……。

鳥山:……。

(両者、突然同時に立ち上がって礼)

 

 

 

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2014.12.6(土)五反田アトリエヘリコプター

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