豊崎由美さんにお話いただいた内容をまとめました。
(2015/9/25 女性バージョン)
参加者:
豊崎由美(書評家)
鳥山フキ(ワワフラミンゴ主宰)
どういう芝居を見てたんですか?
豊崎:私が初めてワワフラミンゴを観たのは2013年に東京芸術劇場で上演された「どこ立ってる」で、その時偶然に隣の席に野田秀樹さんがいらしたんですけど野田さんがもう……。ずっと笑ってた。ちょっとどうかと思うくらい笑ってた。
鳥山:本当ですか?うれしいです。
豊崎:終わった後「やー、へんてこでしたね」って言ったら「いや、サイコーじゃない!」って。以来、私も面白いなあと思いながら観続けてるんですけど、実はキャリアはすごく長いんですよね。2004年3月がワワフラミンゴの第一回。
鳥山:そうです。
豊崎:芝居を立ち上げた時からずっとこんな感じの作風なんですか?
鳥山:基本的にはこんな感じです。
豊崎:鳥山さんは何歳ぐらいからどういう芝居を観てこられたんですか?蜷川さんはインタビューで「どうして芝居を始めたんですか?」って訊かれて「観たから」って答えられてるんですよ。すごく好きな言葉です。何でもそうだと思うんですよね。小説家も「どうして小説書こうと思ったんですか?」と訊かれたら「読んだから」って答えるはずなんです。何か面白いものに出会ったからこそ、「自分もこんなものが書いてみたい」「上演してみたい」って思うんじゃないかなあ、と。
鳥山:ちゃんとしたお芝居観たのは多分高校生の頃なんですよね。今やっているようなお芝居とは違って……。「BROKENハムレット」っていう、野田秀樹さんの劇団にいらっしゃった上杉さんていう役者の方が。
豊崎:上杉祥三さん。
鳥山:はい。ハムレットなんですけど笑いもあってすごく面白かったです。それはそれとして、みたいな感じで時が大分流れまして……。あまり「影響を受けた!」みたいな人はいないんですけど、あえて言うならベターポーヅの西島明さんのお芝居がすごく好きだったので、そうですね。「凄い面白い!」って時がありました。やっぱり。
日常と地続きの感じでやりたい
豊崎:「今月は5本観た」とか「来月はここを予約」とか、熱心に演劇を見るタイプではなかったってことですか。
鳥山:そうですね。わりとそうだったと思います。
豊崎:例えば、さっき鳥山さんが「面白かった」とおっしゃった上杉さんの芝居だと、夢の遊民社出身なわけですからかなり動きますよね、やっぱり。
鳥山:そうですね。
豊崎:でも、ワワフラミンゴは基本的には、椅子が置いてあって、そこに誰かがやって来て、何かしゃべったりしながら、登場人物が入れ替わっていくパターンが多いと思うんですけど、あきらかに消費カロリーが低い感じじゃないですか。上演時間も短めだし。
鳥山:はい。
豊崎:最終的にこの形に落ち着いたっていうのは、演劇からの影響ではないのだとしたら、どうしてそうなったんだと思われますか?
鳥山:うーん。私はマンガがすごい好きなんですけども、マンガから影響を受けてこの形に落ち着いたのは、意外とその、場所の制約みたいなことがある気がするんですね。演劇を始めた頃は、劇場でやらなくてはいけないんじゃないかと思ってました。でも実際に劇場でやったのって10年位やってて4、5回くらいで、後は今回の書店のように、こういう感じの場所を選んでやってます。日常と地続きの感じでやりたいというのは初期の頃からあったと思うんですよね。フラットな感じで外も内も同じようにして扱いたい。
豊崎:外も内も、の「ウチ」っていうのは内面のことですか?
鳥山:いえ、ここも、(ドアの外を指して)そっちもです。
豊崎:あぁ。ここも、ドアの外もっていう。
鳥山:そういうことですね。
豊崎:たしかに、平田オリザさんが提唱された静かな演劇や、日常と地続きの芝居というジャンルもありますけど、基本やっぱり劇場で通りのいい滑舌のいい発声の芝居が中心にある中で、そことは逆のベクトルに向かうっていうのは、何か理由があるんじゃないかと思うんです。たとえば、子供時代からの何らかの嗜好みたいな。さっき「地続き」っておっしゃったけれど、鳥山さんの芝居は今日のたぬきが出てくるシーンみたいに、この世ならぬ存在も現れても、「ぎょっ」と驚くといったリアクションはなく、「あ、たぬき」って日常の中で受け入れてしまったりしますよね。なので、日常の地続きにある不思議が子供の頃からお好きなのかなって思ってしまうんです大人になって急に出てくるもんじゃないんじゃないかな、って。
鳥山:影響を受けた的な?
豊崎:影響というよりは、子供の頃からそういう……。一人遊びがすきだったとか。
鳥山:一人遊びは好きでした。
豊崎:あーやっぱり。渦巻きとか見えた(笑)?
鳥山:バスクリンで泉……泉……って感じで(ジェスチャー)。
豊崎:それは小さい時とかですか?
鳥山:そうです。
豊崎:それは親御さん心配なさったでしょうね(笑)。やー、でも勇気あるなって思うんですよ。ワワフラミンゴって今日も立ち見が出たりはしてますが、失礼ですけど大きな劇場は満員にはできないでしょう?
鳥山:そうですね。
豊崎:鳥山さんの芝居っていうのは、どこかで観る人を選んじゃう気がするんですよ。お茶の間で寝っ転がってバラエティのテレビを受け身で見てるような人には、なかなかこの二物衝撃的な笑いってなじまないのかなって。
自分が変だってことは意識してるんですか?
豊崎:ちょっと俳句っぽいなって思ったんですよ。例えば「春」って言ったら暖かいとか「春」に既に張りついてるイメージがあるじゃないですか。で、俳句は17文字しか使えないから、春っていう言葉を使ったらもう春を説明する言葉は必要ないんですね。そこでどういう言葉をぶつけてあたらしい光景を創りだすか。そこで、時にまったく異質なふたつの事や物をぶつけることで互いの思いもよらなかった魅力を引き出し合う『二物衝撃』というテクニックが有効になるわけです。私はワワフラミンゴにはそういうところがあるなと思っていて。会話が二物衝撃になっている時が多々あるんです。あと「意味のずらし」も。お笑い芸人で好きな人とかいるんですか?
鳥山:好きな系統で言うと、おぎやはぎさんとか、ポイズンガールバンドさんとか……。
豊崎:異化効果なのかなあ。例えば今日、草っていうか本当はサラダを、ああいう形で食べさせるシーンを観たことによって、観客にとってのこれまで自分が見てた草観が変わるんですよ。常識で曇ってた目がまっさらな感じになるというか。そういうのは狙ってやってる訳じゃないんですか?
鳥山:無意識なんですけど……。ちょっとは狙ってるのかもしれないです。
豊崎:一人で劇作してらっしゃるわけですよね?
鳥山:基本的にはそうですね。
豊崎:最初の稽古に持ってく第一稿みたいなものに「急に草を食べさせる、終わり」ってあるんですか。そういう台本を作ってる精神状態は渦巻きが見えてる感じなんですか?
鳥山:そうですね。ある程度そういう調整はします。自分の精神状態を、ちょっとはそういうおかしな感じにする時もあります。
豊崎:鳥山さんは自分が変だってことは意識してるんですか?
鳥山:変だと思ったことはないです。
豊崎:一見、変じゃないですもんね本当に。
鳥山:そうですね。でも、全員同じだと思うんですよ、基本的には。ちょっと乱暴ですけど。
豊崎:いや、私の中には鳥山さんが生み出す発想はありませんよ、残念ながら。うらやましいですよ。渦巻き見る人は違うな、って。
鳥山:そんなことないと思います。
豊崎:いやいや、私にはないですよ。こんなへんてこな発想生めないですもの。
鳥山:(間)そんなことないと思うんですよ。
豊崎:私も「バスクリンで泉~」とかやってたらそういう精神状態に持っていけるんですか?
鳥山:そうです!
豊崎:持ってけるんだ。
鳥山:多分そうだと思います。
豊崎:えええー。
鳥山:そうじゃないかと思うんです。精神状態の作り方にコツみたいなものがあって、頭の中のことなので説明しづらいんですけど。でも、劇作とかされてる方って皆そうだと思うんですよね。頭をそういう方向に持っていって、ていうのが多分あるんじゃないかと思うんです。私の方向がたまたまこういう感じだったってだけで。
豊崎:方向、っていうのはこのワワフラミンゴ的な世界観ってことですか?
鳥山:そうです。ここを目指して作ってるからこういう感じになる。
豊崎:うーん、誰でもは作れないと思うけどなあ、この世界は。だからこそ野田さんは大笑いしたんだから……。まあ、野田さんは野田さんの……。あ!そういうことか。野田さんは野田さんの演劇の世界を作るように野田さんがちゃんと脳を調整してるはずだってことなんですよね。
鳥山:多分そうだと思います。
豊崎:あーはいはいはい。じゃあ、私だったら書評を書けるような脳に調整して、書評を書いてるって解釈で合ってますか?
鳥山:そうだと思っているんですよね。
豊崎:あーそっかそっか。そういうことですか。ただ、その調整に関しては人によって得手不得手がありますよね。鳥山さんは、こういうことを考えるのが子供の時から得意だったってことなんでしょう?
鳥山:多分そうだったと思います。
今それを思い出しました
豊崎:鳥山さんて本名ですか?
鳥山:本名じゃないです。
豊崎:鳥が好きなの?
鳥山:いや……。あの、好きです。
豊崎:動物必ず出てきますよね。何かしら。
鳥山:ああ。そうですね。
豊崎:けものバカですか?
鳥山:けもの……。うーん。バカじゃないですね。すごい可愛い、って気持ちはあるんですけど、家の中で何匹も飼えるのかって言われると、そんな強い情熱は多分ないなって気がします。
豊崎:冷静なんですね。……あ、精神科で働いてた友達に聞いたんですけど、ある患者さんが「地球の中には空洞があって、そこで肉体労働してる人たちがいて、その人達のおかげで私たちは物が食べられる」って考えを持ってたんですって。で、「地球の中には食べ物がないから、自分は働いている人たちのために一日に3回『んー』って念じなきゃいけない」んだそうです。なものだから、その人はレクリエーションのソフトボールでヒット打って走ってる最中でも、急に立ち止まって「んー」って念じはじめるような具合だったんですけど、ある日、私の友達がその人との面談で、本当はそういう冗談は言っちゃ駄目なんですけど、つい「私お腹すいちゃったなー」って言っちゃったんですって。そしたら「先生は自分でちゃんと働いて稼いでるんだから、コンビニで何か買って食べてください」って。まともでしょ?一点ものすごくおかしなところがあっても、それ以外のことではだいたい常識を備えているんだそうです。今それを思い出しました。
(一同笑)
豊崎:鳥山さんも、芝居自体はちょっと頭の中をのぞいてみたいってくらいヘンテコですけど、今みたいに冷静に「そんな沢山なんでも動物を飼えるような人間じゃありません」って言い放つところに、ますます才能を感じます。
鳥山:……(笑)
豊崎:あんまり嬉しくない?(笑)
今度やるときはそれ狙いましょう
豊崎:ワワフラミンゴ見て親和性が高いなと思ったのが、岸本佐知子さんが訳すような海外のちょっとへんてこないわゆるストレンジフィクション(奇想小説)。是非読んでみてください。ご親戚がいっぱいいますよ。『変愛小説集』っていうアンソロジーの中にうじゃうじゃいます。
鳥山:読みました。宇宙に……。
豊崎:そうですそうです。皮膚が宇宙服になっちゃう病気だかなんだかが蔓延してて、奥さんが先に空に上がっていきそうになるからずっとつかまえていたものの、奥さんがあんまり「痛い痛い」って言うから手を離しちゃって、自分は彼女にちゃんと追いつけるだろうかって心配してる旦那さんの話ですよね。あと、ちょうど今読んでるところなんですけどリディア・デイヴィスの短篇集『サミュエル・ジョンソンが怒っている』。そこまで奇想って感じではないんですけど。私、海外文学をもっとみんなに読んでもらう草の根運動をしているので、今日はせっかくだからワワフラミンゴファンも折伏をしなきゃと思ってやってきたんですよ。『サミュエル・ジョンソンが起こっている』を鳥山さんにプレゼントしますので、ここにいらっしゃる皆さんも、ぜひこの機会にリディア。デイヴィスを読んでいただけたらと(笑)。
鳥山:わかりました。読みます。
豊崎:この場に、今いきなりたぬきが来たら面白いですね。……あっ、実はこれも芝居だったのかもしれない!って思わせる演出にすればよかったですね。豊崎の話したことは全部セリフだったの?!って。今度やるときはそれ狙いましょう。
鳥山:そうですね。
豊崎:みなさん、わたしのインタビューがふがいなかったせいで、結局は鳥山さんのことがよくわからなかったことかと思います。ごめんなさい。で、しつこいようですけど、海外文学是非読んでくださいね(笑)。ワワフラミンゴ好きは絶対海外文学と相性がいいはずですから。